末梢動脈狭窄に対するカテーテル治療

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末梢動脈狭窄に対するカテーテル治療について

1)閉塞性動脈硬化症、末梢動脈疾患とは

手足の末梢動脈が動脈硬化により細くなり閉塞し血流障害を起こしてくる病気です。高齢化が進む本邦では今後増えてくる病気と考えられます。特に喫煙者、糖尿病、高血圧、脂質異常症、透析患者さんに起こることが多い病気です。また心房細動(不整脈)でも血栓塞栓症で下肢の血管が閉塞し発症することがあります。病名は外国では末梢動脈疾患(PAD)と呼びますが日本では以前から下肢の動脈閉塞を閉塞性動脈硬化症(ASO)と呼んでいました。現在は日本でも下肢動脈やそれ以外でも末梢動脈の閉塞症(PAD)は呼ぶようになってASO = PAD 同義語として使われています。 

2)足の動脈が詰まるとどうなるのですか?

下肢のしびれや冷感、歩いていると筋肉痛が出る、下肢に治りにくい潰瘍や紫色(チアノーゼ)から黒くなり進行すると足趾の壊疽となるなどの症状がでます。 

3)どのような検査で診断するのですか?

もっとも簡単で信頼性が高いスクリーニング検査は血圧脈波検査です。手足の血圧を同時に測る検査で上肢と下肢の血圧比(ABI)0.9以下(正常:1.0-1.3)でASOと診断されます。所要時間は10分程度で結果もその場でわかります。最近は健康診断や人間ドックでも行われることが増えてきています。そのほか血管の超音波検査、MRI,CT検査等がありより詳細に血管の状態が診断できます。

4)どのように治療するの?

〇 血管の閉塞部位や進行状態により分かれます。治療の基本は薬物・運動療法(リハビリテーション)です

しびれ・冷感の方:まず動脈硬化を進行させる生活習慣の改善や病気の診断治療を優先します。

〇 歩くと筋肉痛が出る(間欠性跛行)の方:どうして痛みが出るかを検査し血流を改善するための最適な治療を相談させていただきます。

〇 安静時の下肢痛や難治性潰瘍病変、足趾壊疽がある方:血管閉塞部位を速やかに診断し血流障害を改善する手術(バイパス手術、血管内治療)による血流再還流療法が必要になることが多い状態です。治療では血管バイパス手術が行なわれてきましたが海外では血管内治療のためのデバイスが多数用意されバイパス手術の前にまず血管内治療が行なわれるケースが多くなってきています。当院でも積極的に血管内治療を行っています。



啓蒙ポスター

当院では循環器病センター(循環器内科、心臓・血管・腎臓内科、心臓血管外科)と関係する、心臓リハビリテーション、形成外科、麻酔科で末梢動脈疾患(PAD)の治療を積極的に行っております。最近10年間で約1000例の治療を行っております。歩行時の下肢の筋肉痛が治らない方や足の傷が治りにくい方また下肢の症状でお困りの方はご相談ください。

主な血管内治療の概要

1 主な血管内治療の概要
1-1バルーンカテーテル治療

狭窄もしくは閉塞した下肢末梢の動脈を外科的な手術を行わず、先端にバルーンが付いているカテーテルを血管内の狭窄・閉塞部に挿入し、そこでバルーンを膨らませて血管を拡げる治療です。メリットとして血管内に何も残さないという点で多くの施設で積極的に取り入れられていて血管内治療の基本でありますが、一方、再狭窄を繰り返すなど再治療が必要となる場合もあり、特に病変が長くなればなるほど長期の開存率が下がる傾向にあります。血管径の大きな腸骨動脈領域から細くなる大腿膝下動脈までおこなわれますが再狭窄が問題になることが多いため現在は次に述べるステント治療が併用されています。

 

1-2金属ステント治療

血管を内側から支える円筒型の金属製の管(多くはナイチノール合金)を病変に留置することで開存の状態を保つ治療です。バルーンカテーテル治療後に再狭窄する主な要因としては、a) 動脈壁が縮小し元に戻る(エラスティックリコイル) b) 動脈の外弾性板が縮む(ネガティブリモデリング) c) 内膜層の厚みが増す(新生内膜の過形成)の3つがあげられますが、ステントという筒に支えられることによってa) b)の問題を対応する特徴があります。ステントは多数のメーカーから販売されており、それぞれデザインや長さのラインナップなどあり、柔軟性や拡張力やステントの長さなど、必要な病変に合わせて選択でき選択肢が広いこともあげられます(図1参照)。一方は、新生内膜の過形成による再狭窄への対応に薬剤がついたステントもあります。これらステントは腸骨動脈から大腿動脈までの血管病変に適応がありますが膝下動脈以下には保険適応はありません。

1-3薬剤溶出型ステント

上記で説明したステントに薬剤が塗布されているステントです(図2参照)。塗布されている薬剤はパクリタキセルという抗がん剤が使用されています。最大のメリットは薬剤による新生内膜の抑制効果が期待できる点です。留意された後は内服薬2剤の抗血小板療法をきちんと行えることが重要です。

1-4外科的バイパス手術

この方法は、閉塞した血管部分の上下を、体内の他の部位から採取した血管または人工血管で繋いで、血流の迂回路 (バイパス) を形成する方法です。解剖学的な形態が血管内治療に適さない場合や長い動脈閉塞、生活習慣治療でも改善が有効でない場合に適応される治療法であり長期開存率は血管内治療より優れていますが抗凝固療法が必要になる場合が多くまた外科手術時には全身麻酔などの相応のリスクが伴い、特に心臓病、高血圧または糖尿病など他の疾患がある患者にはさらにそのリスクが高くなる可能性も考慮しなければなりません。

 

1-5ステントグラフト(カバードステント)

ゴアテックスによりコーティングされた ナイチノールステントを使用したデバイスで唯一「バイアバーン」(図3参照)が発売されています。

メタルステントに人工血管の膜を張ったステントです。このデバイスの治療は一般的に血管内バイパスとも呼ばれています。メリットとしては、病変すべてを人工血管で覆ってしまうので、新生内膜の過形成による再狭窄を抑制します。デメリットとしては微小側枝血管や側副血行路をふさぐ点や、血栓症のリスクなどが挙げられます。良好な成績を得る為には留置前にバルーンカテーテルでしっかりと病変を拡げることが重要となります。

1-6薬剤コーティングバルーン

1-1で紹介をしたバルーンカテーテルの表面に薬剤が塗布されているものです(図4参照)。塗布されている薬剤は、薬剤溶出型ステントに塗布されている薬剤と同様にパクリタキセルが塗布されています。バルーンを拡張した際に薬剤が血管壁に取り込まれることで新生内膜の過増殖を抑制する効果が期待されています。『Leave nothing behind(体内に異物を何も残さない)』を代表するデバイスになります。日本においては2017年に承認がされたデバイスで、臨床における効果について現在期待されているデバイスの一つです。


2 血管狭窄部貫通用カテーテル

バルーンやステント治療による血管内治療の初期成功に重要とされるガイドワイヤー通過に関連するデバイスを紹介します。例えどのようなデバイスで治療するにも、閉塞した血管が石灰化病変などで固くガイドワイヤーが病変部を通過できなければ開通させ血管内治療を成功させることはできません。また通過できても固い病変で十分にバルーンで拡張できなければ再狭窄の要因となります。ワイヤー通過は術者の技量にも大きく左右されるところですが、欧米諸国ではワイヤー通過のために様々なデバイスが開発されております。現在日本では、振動式末梢血管貫通用カテーテルとしていくつか登場して使用されています。デバルキング用デバイスの製品のCrosser(Bard社)(図5参照)の特徴としては、ガイドワイヤーにより貫通が困難な慢性完全閉塞病変に対して毎秒2万回の機械的振動によりもたらされるキャビテーション効果により病変を通過させるユニークなデバイスです。米国での研究結果では一般的ガイドワイヤーが通過できなかった慢性完全閉塞病変に対する手技成功率は83.5%と高く石灰化の強い膝下の末梢血管などでも使用できて手技時間も短縮できたされています。一方で柔らかい皮膚や血管壁に対しては振動は吸収され血管壁を貫通しにくくなる為、安全に慢性完全閉塞病変の血管内のみを貫通するとされています。もう一つは先端チップをダイヤモンドコーティングし1万3000回転で高速回転することで閉塞部位を貫通し開通するTruePath((Boston Scientific)というユニークなデバイスも登場してきました。手技成功や手技時間の短縮が期待されています。つぎにリエントリーデバイスと呼ばれているOutback(Cardinal Health)(図5参照)があります。これはガイドワイヤーが血管壁内(偽腔)に迷入した場合、真腔にガイドワイヤーを戻すのに有効なデバイスです。これらのデバイスはすべて浅大腿動脈の慢性完全閉塞病変に使用されます。


膝下末梢病変の血管治療

膝下動脈以下の血管病変は細く病変長や閉塞区域は長く血管内治療が困難な症例も多いこと、高率な再狭窄、再閉塞率、ステントや専用デバイスがほとんどないことから血管内治療は重症虚血肢(難治性潰瘍形成、壊死)での救肢のためだけに行なわれています。また行なう施設も限られます。バイパス手術でも高率に再閉塞してしまうため行なう施設も少ない状態です。私たちの施設では糖尿病や透析患者さんで潰瘍・壊疽が進行している状態にたいし創傷治癒を促すために積極的に血管内治療、バイパス術を行なっています。下肢切断が行なわれる症例でも切断範囲を少なくするために血管内治療が行なわれています。それらの治療で潰瘍が治癒し救肢できた症例も多数経験しています。しかしまだまだエビデンスが確立した治療ではなく今後の課題であります。また血管治療チーム(内科、血管外科、形成外科、麻酔科、リハビリテーション科、ME、専属ナース、栄養士等)の多種職種による治療・介入の協力により最良の治療ができると考えています。

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